Vol.17 租税特別措置法という法律
タイトルに挙げた法律、ご存じでしょうか?
字の通り「租税」について特別に定められた措置についての法律なんですが、所得税法や法人税法、相続税法など、様々な租税について、これらの個別の法律と切り離して、租税特別措置法として、まとめて規定しています。
なぜ所得税法や法人税法、相続税法などの中で規定しないか。それは、租税特別措置法の性格が、「政策目的」に軸足を置いているためなんです。
税制は、本来、
1)経済活動に対して中立でなくてはならない
2)納税者にたいして公平に課税されなくてはならない
3)複雑怪奇なものではなく、平易・簡素なものであるべき
といった基本スタンスに軸足を置いています。
租税特別措置法は、極端な話ですが、これら逆行する性格があります。
景気が悪いときは、景気を浮上させるための政策を設け、景気に過熱感が出てくると、これを抑えるための政策を設け、雇用を増やす必要があるときは、そのような政策を設け、特定の設備投資を促す必要があるときは、設備投資を促す政策を設け・・・といった具合です。
で、基本的には、「いつから」「いつまで」という期限を切って規定されます。
ただ、いったん規定されたら、期限が来ると、延長、延長・・・また延長・・・といった具合に、継続されているものが沢山あります。
現在、政府税制調査会の法人税DG(ディスカッショングループ)では色々なことが議論されていて、法人税率の引き下げに合わせて、様々な手当てが検討されていることは、以前にも書きましたよね。
そのうちの一つで、「期限の定めのある政策税制は、原則、期限到来時に廃止する。」などとしています。
では、現在どのような措置が規定されているかといいますと・・・凄く沢山あります。
たとえば、雇用を増やすための「雇用促進税制」、雇用された人の所得を増やすための「所得拡大税制」、中小企業の設備投資を促進させるための「中小企業投資促進税制」、環境対策のためエコエネルギーを促進させるための「環境関連投資促進税制」などなど。
仮に、延長されないとすると、「今だけおいしい」税制といえるわけです。
さて、どうなるか。答えは年末の税制改正大綱へ~!
Vol.16 相続税と贈与税
税法という法律はありません。
法人税法、所得税法、相続税法、消費税法などというのが法律の名称で、後ろ2文字を取って、税法と呼んでいるですね。
では、贈与税法という法律は・・・ありません。でも、贈与税という税金の種類は存在します。
税金の種類としては存在するのに、法律が存在しなくてどうやって課税できるのか?
実は、贈与税に関しては、相続税法の中に規定されています。・・・なぜでしょうか。
それは、贈与税は本来相続税として課税すべきところ、相続税が課税できない部分を補完するために設けられた存在だからなんですね。
そのため、相続税法は「一税法二税目」と呼ばれます。
相続税は、相続が発生した時点の財産について課税されます。財産をたくさん持った状態で相続が起これば、課税される相続税も重くなるってことです。
すると、生前に所有している財産を減らしておければ、相続税の負担は軽くなると考える人が出てきてもおかしくないですよね。
その財産を減らす手段として有効とされるのが、生前贈与、つまり、生きているうちに、子供達などに財産を贈与する方法です。
もし、相続税だけ存在していて贈与税がなければ、極端な話ですが、生前贈与で財産を子供達にすべて移転すれば、相続税は課税できなくなってしまいますね。これを防止するのが贈与税、別の言い方をすれば、生前に課税する相続税ともいえるわけです。
そもそも、相続税が設けられている趣旨は、「富の再分配」「格差固定化の防止」などとされています。
富裕層の家系に生まれれば、遊んで暮らせる。そんな社会はいかがなものか。税を介して、社会に還元することで、格差社会の拡大に待ったをかける。そんな機能を持っているわけです。
そう考えていくと、理想を言えば、相続税の課税漏れがなくなるのであれば、贈与税は無くしてしまっても良いのかなとも思えませんか?
つまり、将来相続税が課税されるべき生前贈与の全てを、相続税の対象に取り込めれば良いわけです。でも、現在の課税技術では不可能なので、贈与税は必要な存在なんですね。
平成28年から利用開始予定の番号制度の進化次第では、遠い将来には贈与税の廃止も現実のものとなるのでしょうか・・・。
ん~自分自身に相続が発生するまでに、その顛末をみとどけられるかな・・・。
Vol.15 ふるさと納税
ご存知のかたも多いと思いますが、ふるさと納税が拡充の予定。7月5日菅官房長官の発言です。
菅官房長官と言えば、ふるさと納税導入を進めたおかた、当時は総務大臣でした。
やはり思い入れがあるのでしょうね、この度、官房長官として拡充を進められるんですね。
ふるさと納税は、現在住んでいる自治体に納める住民税の一部を、現在は住んでいない別の自治体に、納付できる制度です。その別の自治体に納めた住民税は、現在住んでいる自治体に納める住民税の税額から、ほぼ全額が控除されます。
結果、上手にふるさと納税をすれば、しない場合と比べて住民税の負担はほとんど変わりません。
ふるさと納税について住民税の税額から控除できる上限が、現行の法律では住民税の約1割とされています。菅官房長官は、この上限を「例えば2割にすることを検討すべきだ」と語ったんですね。
ふるさと納税をした自治体によっては、その謝礼として、特産品などを送ってくれることがメディアで紹介されています。インターネットで検索すると、おすすめのランキングを掲載しているサイトなんかもあり、ちょっとした(?)ブームになりつつあるようですね。
で、ふるさと納税をして、いただける特産品なんですが、これ所得税法上は「一時所得」として取り扱われます。
一時所得には50万円の特別控除額があるため、所得税が課税されることはないのが一般的なんでしょうね。
ただ、ふるさと納税をした年に、保険金の満期受取が重なったりすると、50万円の特別控除額を超えて、所得税が課税されることもあるので、当てはまるかたは、確定申告の際にはお忘れなきように!
Vol.14 相続税法の改正
相続税法が改正され、来年から相続税が増税されるという話題がメディアでもたくさん取り上げられていますね。ご存じ・・・ですよね?!
仕事柄、当然に認識していることなのですが、世間一般での認知度を知ってビックリしました。
すこし古い話題ですが、信託協会が今年7月に、40歳以上の既婚者でお子様がいる方を対象に行った「相続に関する意識調査」では、この度の改正を知っていると答えた人は、50.9%だったそうです・・・以外に皆さんご存知ないのですね(と思うのは職業病でしょうか)。
また、今後、相続財産を受け取る可能性は?との質問について、受け取る可能性があると答えた人は45.2%だったようです。この人たちは、みなさん相続税の改正のことを知っているんでしょうね・・・たぶん。
ただ、相続財産を受け取れる可能性がある人のうち、相続対策の必要性を感じている人は約半分の50.9%で、実際に相続対策をしてもらっている人は19.8%にとどまっているんだとか。
逆の相続財産を残す側の立場に立つ人のうち、相違対策をしている人は9.8%だったようです。
9割の人は相続対策をしていないということのようで、その理由として、相続税がかかるほどの財産を保有していないからと答えた人が61.4%だったようです。
相続税が増税になるということを知っておられるからなのか、問題意識は、「相続税」にあるようですね。
確かに、相続税の負担が重くなることは嫌だ思われる気持ちは分かりますが、相続ってそれだけではないように思います。
たとえば、父が既に他界していて、現在は母と長男・次男の3人家族。長男が母と同居して母の面倒をみていて、次男は独立している。そんな家族があったとします。母の財産は自宅と預貯金のみ。この状態で母に相続が発生したとします。
母の残した財産のほとんどは自宅で、長男は自宅を継ぐことを考えています。でも、次男は自分にも相続権があるとして、自宅を売却して平等に分けるべきだと考えてたら・・・
多額の相続財産があるわけではないので、相続税の心配は全くなくても、相続でもめるケースって想定しうえるのではないでしょうかね。
みなさんは、「相続」を「相続税」の問題と考えますか?
Vol.13 特定調停スキーム
2009年12月に施行された金融円滑化法、当時の金融相だった亀井静香さんが提唱したことで出来た法律ですが、2013年3月いっぱいで終了して1年半が経とうとしています。
リーマンショックの窮地を脱するために、「何とか借入金の返済を猶予してもらえないでしょうか・・・」といった申し出を企業から受けた金融機関は、その期待に応えるような対応をして、頑張っていこうとする企業を潰さないでね。とするのが金融円滑化法でした。
その金融円滑化法が終了・・・ということは、倒産予備軍とされていた企業が、本当に倒産していくことは予想できますよね。
金融庁は、金融円滑化法終了後も、それまでと変わらない対応を金融機関に求めていたようですが、平成25年6月14日に閣議決定された「日本再興戦略」で凄いことが書かれました。
”新事業を創出し、開・廃業率10%台を目指す”としたのです・・・開・「廃」業率ですから、倒産する企業は倒産してくださいという解釈ができるわけです。
確かに借入金が足枷になっているものの、利益を生み出せる事業は持っている。そんな企業の再生を後押しするために整備されたのが、「特定調停スキーム」です。
たとえば、利益を生み出せる事業に回帰したうえで、1億円の借入金を1,000万円程度にマケテもらえれば、企業も再生を果たせるうえ、1,000万円の借入金も返せる。もしこのまま倒産すれば、返せる借入金は100万円程度です・・・。だから、金融機関の皆様には9,000万円について、涙を呑んで、何とか債権放棄してもらえませんか。というお願いを聞いてもらおうとするスキームなわけです。
ただ、これまでは簡単に実行できるスキームではなかったんです。なぜか。それは、一つの大きな理由として、法人税等の負担が重くのしかかる恐れがあったためです。
借入金を免除してもらう企業側では、債務を弁済しなくてよくなった分について利益を得たと考えられますね。そこに法人税が課税される可能性があったわけです。
一方、債権を放棄した金融機関側では、債権を回収できなくなった金額が損失となるわけですが、これが「お金を貸して返してもらわないのは、寄付をしたのと同じでしょ」として、税金の計算をするうえで、一部損失として扱ってもらえなえなくなる可能性があったんです。損失として取り扱ってもらえなければ、利益が増えます。利益が増えれば税金が高くなる・・・。
つまり、債権放棄をする側、受ける側、両社にとって税負担のリスクがある話だったわけですね。
そこに、日本弁護士会連合会と日本税理士会連合会が連名でテコ入れをしました。国税庁に、「まっとうに頑張って再生を果たそうとしている企業に重い課税がされては、元の木阿弥になってしまう。きちんとしたやり方でしている場合には、税金の負担について考えてもらえないですか」との意見を出しました。
これについて、国税庁が平成26年6月25日にOKを出したわけです。
さて、問題はこれが有効に機能するかどうか。機能するには、まずスキームを知ってもらうことが第一歩。
もし、このブログが、これから自社をどうするべきか悩んでおられる経営者の皆さんのお目に留まればと思いメモしました。
もっと詳細を知りたいかたは次のURLをご覧くださいね。(ちょっと難しいかもしれませんが・・・)
http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/bunshokaito/hojin/140630/index.htm
Vol.12 税法の精密さ(2)
さて、昨日の続きです。
昨日は「会社」と「法人」は使い分けられていて、「会社」よりも「法人」の方が広い概念であることが、分かっていただけたかなと思います。
たとえば、「会社」というと、株式会社は含まれるけれど、医療法人は含まれない。「法人」というと、株式会社も医療法人も含まれる。ということになるわけです。
税法をみていると、この使い分けがはっきりとされている条文がたくさんあります。
典型的なものが、「同族会社」という単語です。簡単に言えば家族で設立した会社のように、株主を親族で占めている会社などのことです。
税法では、株主が家族だけのような会社は、上場会社などと異なり、節税のために好き勝手なことをしかねないという思考を働かせています。
そこで、同族会社については、節税目的だけと思われる活動などについて、課税を免れないようにするために、条文上一定の制限をかけているわけです。
この対象となるのは「同族『会社』」なので、医療法人や宗教法人、学校法人、一般社団法人などは含まれないということになります。
たとえば、同族会社では、稼得した利益について、株主への配当を敢えてせずに会社に留保することで、会社に株主を合わせたところで節税を図ることが可能になります。
会社の株主が自分たち家族だけなら、配当しない目的が節税のためと分かっていますから、文句を言う人も出ないですよね。これが上場企業なら、株主から厳しい意見が出されることでしょうから、到底採りえない節税手法なわけです。
そこで、法人税法では、一定の同族会社について「留保金課税」という制度を設けて、通常の「儲け」に対する課税以外に、利益の蓄積額に応じた課税をすることで、株主への配当を促そうとしています。ただし、この規定は現在のところ、資本金の額や出資の金額が1億円以下の一定の同族会社などについては適用対象から除かれていますが・・・。
この留保金課税の制度は、医療法人には適用されないんですね。医療法人は「会社」ではないためです。
形式的にはこれで説明できるのですが、では、なぜ「同族『法人』」に対する規定としなかったか。そこが重要なんですね。
それは、現在、医療法人を設立した場合、株式会社でいう「株主」のように、その法人の「持分」を持った者が存在しえないためです。
株式会社の場合、会社は「株主」のものと説明されます。つまり、会社を「や~めた」と解散すれば、借金などの負債をすべて返した残りは、株主が出資持分に応じて分け分けすることになります。
現在設立できる医療法人では、医療法人に対する持分をもっている者、つまり、残った財産を分け分けする存在にあたる者が「いない」ということです。宗教法人や学校法人、一般社団法人なども同様で、こういった法人のことを「持分の定めがない法人」といいます。対する株式会社や有限会社などは「持分の定めがある法人」といいます。
「持分の定めのない法人」は、稼得した利益を配当金として支払うことはできません。配当金を支払うことで稼得した利益を株主に還元できる、株式会社のような「営利法人」と一線を画した「非営利法人」と位置づけられます。
たとえば、医療法人では医療法第54条で「医療法人は、剰余金の配当をしてはならない」と規定しています。
すると、利益が出れば、おのずと法人内部に蓄えられますね。そこに留保金課税の制度を適用して「おたくは節税のために配当をせず内部にため込んでいるから、そこに課税します」なんてすれば、医療法人としては、利益を出せても出したくなりますよね。
そこで、法人税法では留保金課税制度の対象から、「持分のない法人」を除くために「会社」を対象としているわけです。
どうですか?ふか~いですよね。税法ではこういった「なるほど、それでそのように規定されているんだ」というとことが沢山あります。毎年の税制改正の条文案(法律・政令・省令)を作成している財務省主税局のお役人さんって、いったいどんな頭脳を持っているのか、凄すぎます!
Vol.11 税法の精密さ
法律って、一語一語凄く気を使って規定されているんですね。でも、日常生活では、そんなこと気にする人はほとんどいないと思います。
代表的な言葉づかいとして、
「又は(または)」と「若しくは(もしくは)」
「及び(および)」と「並びに(ならびに)」
「その他」と「その他の」
があります。これ、それぞれ慎重に使わないと、とんでもなく意味が異なってしまうことになるんです。
「A又はB」、これは「AかBのうち、どちらか」ということです。
「A若しくはB又はC」、これは「AかBのどちらかのうち一つと、Cのどちらか」ということ・・・もう少し噛み砕くと、「若しくは」でAかBのいずれかを選択し、その選んだものとCの何れかってことになります。
「A及びB」は「AとBの両方」ということで、「A及びB並びにC及びD」、これは、「AとBの両方」これと「CとDの両方」の両方って意味になります。
「Aその他B」は、「AやB」という意味で、AとBは並列的な位置づけになり、「Aその他のB」は「AはBのうちの一つの例示」になります。ここが一番に分かりにくいかもしれませんね。
たとえば、「バナナその他リンゴ」と書くと、「バナナやリンゴ」という意味になり、「バナナ」と「リンゴ」は並列的な位置づけで、「バナナ」と「リンゴ」は別個のものとして整理されます。
でも「バナナその他のリンゴ」と書いてしまうと「バナナ」は「リンゴ」のうちの一つの例示になり、「バナナ」は「リンゴ」の一種、なんて意味になってしまい、わけがわからなくなってしまいます。
後者で書くなら「バナナその他の果物」と書く必要があるわけです。
税法をみていると、他にも凄く精密に言葉を選んで法律が組み立てられていることに気づきます。
その代表例が「会社」と「法人」という言葉の使い分けです。
「会社」と書くと、「株式会社」、「有限会社(=正確には特例有限会社)」、「合同会社」、「合名会社」など「会社」という言葉が付く組織に限られます。
「法人」と書くと、「会社」以外にも「宗教法人」、「学校法人」、「医療法人」、「一般社団法人」なんかも含むことになります。
で、税法を作っていく際には、ここは対象を「会社」としよう、ここは対象を「法人」としないといけないな。なんて感じで、ものすごくシビアに使い分けられているんだと思います。
「会社」と規定すべきところを「法人」と規定してしまうと、えらいことになってしまいます。なぜか・・・。それは、たとえば「株式会社」と「医療法人」ではその性格が全く異なるからなんです。と、含みを持たせたまま、今日のブログはこのあたりで。気になる方は次回(=明日)をお楽しみに!!
Vol.10 人がいない
最近、お客様から「誰かいい人いないかなぁ」と言われることが増えてます。特に、建設業関係で多いです。
一般的に言われる一つの理由としては、景気が上向きになると、仕事が忙しくなり企業が人材を集めるため、様々な業種で人手が不足するということです。
総務省統計局が8月29日に発表した「労働力調査(基本集計)」によれば、今年7月の完全失業率は3.8%とのこと。
完全失業者数は248万人で、前年同月に比べて7万人減少し、50か月連続で減少したとのことですから、確かに働けない人が減ってきていることが分かります。
ただ、よく聞く言葉は「誰か『いい人』いないかなぁ」なんですね。
ある建設業界の人と話していた際に言われていたことが印象に残っています。
「建設業界って今はどこも忙しいんですよ。そんな時期に、仕事がなく仕事を待っている人は、仕事が雑だとか、質が悪いとか、何かしら問題があるような気がして・・・だから、『働きますよ』とか『その仕事引き受けますよ』という人は、採用したり仕事をお願いするのには抵抗があるんです」
なるほど。働ける人はいるんだけど、きちっと仕事をしてくれる「いい人」がいないんですね。
でも、しっかりした仕事をしてくれる人って、常に求められると思います・・・。すると、景気の良し悪しと、「いい人」がいないのは関係ないのかなぁ・・・。
「いい人」を採用したり、仕事をお願いできる間柄になるには、自分がステージを上げることかなと思ったりします。
で、「いい人」と巡り合えたとき、その人を採用する、つまり雇って給料を払うのか。それとも仕事をお願いする、つまり外注するのかで迷われることも多いと思います。
よくあるのは、雇用すると会社の社会保険料の負担が重いから、実質は雇用形態なのに形式的に外注を装うケース。
ただし、税務上では雇用と外注については、結構厳しく問われます。税務調査で、「〇〇さんへの支払を外注費にされてますけど、雇用形態ですよね。だったら給与ですよね。」と指摘されたとすると、消費税や源泉所得税の点で結構大きなしっぺ返しを受けることもあり得ます。
ちなみに、給与と外注費を区別する判断基準は、
(1)その契約に係る役務の提供の内容が他人の代替を容れるかどうか。(→容れなければ給与)
(2)役務の提供に当たり事業者の指揮監督を受けるかどうか。(→受けるなら給与)
(3)まだ引渡しを了しない完成品が不可抗力のため滅失した場合等においても、当該個人が権利として既に提供した役務に係る報酬の請求をなすことができるかどうか。(→請求できれば給与)
(4)役務の提供に係る材料又は用具等を供与されているかどうか。 (→供与されていれば給与)
といった点を総合的に勘案して判断されんですね(消費税法基本通達1-1-1)。
社会保険料の会社負担を軽減するがために、税務面で大きな失敗をしないように、形式ではなく実質で判断しましょうね!
Vol.9 教育資金「一括」贈与
導入以来、これほどまでに好評を博した制度も珍しいと思われるのが、「教育資金の一括贈与に係る贈与税非課税措置」と思います。
祖父母などが、子どもや孫名義の金融機関の口座などに、一定の教育資金を一括して拠出した場合、子どもや孫ごとに1500万円までは贈与税を非課税とする特例で、平成27年12月末まで適用されます。
ただし、将来に贈与税が課税されることもあります。
たとえば子どもや孫が30歳になっても使い切れずに残った場合や、一定の教育費以外に使用した場合などには、子どもや孫が30歳になった年に、それらの部分について贈与税が課税されることになります。
もともと、扶養義務者間で、生活費や教育費に充てるためにした贈与については、それが「通常必要と認められるもの」であれば贈与税は非課税とされています。だったら、「教育資金の一括贈与に係る贈与税非課税措置」っていらないのでは?と思われる方もいるかもしれませんよね。
でも、先に書いた非課税は、「生活費又は教育費として必要な都度直接これらの用に充てるために贈与」した場合についてだけだよとされてるんです(相続税法基本通達21の3-5(生活費及び教育費の取扱い))。
つまり、いずれ使うからとして、その年中には使わずに預貯金として残ってたりしたら、贈与税が課税されちゃうことがあるってことなんです。
だから、将来の分も「一括」して贈与した分について贈与税を非課税とする規定が設けられた意味があるんですね。
前置きが長くなりましたが、この非課税制度が大人気で、信託協会によると、今年6月末現在で、教育資金贈与信託の契約件数が7万6,851件、信託財産設定額合計は5,193億円にものぼっているんだとか!(数字や金額が大きすぎてピンとこないかもしれませんが・・・)
で、平成27年度の税制改正要望では、この非課税制度のさらなる拡充が要望として挙げられています。
文部科学省と金融庁は、
1)非課税措置の恒久化
2)非課税対象範囲の拡大や口座開設手続きの簡素化
3)直系尊属(祖父母等)以外から贈与を受けた場合にも贈与税非課税の対象にする
以上の3点を要望しています。高齢者世代の保有する資産が移転を促進させて、経済を活性化させたいってことだそうで。
内閣府は、さらに一歩踏み込んで、
「子・孫の結婚・妊娠・出産・育児を支援するための贈与を目的に設定する信託に係る贈与税の非課税措置等の創設」として、結婚、妊娠、出産、育児に充てるためにした贈与についても、贈与税を非課税とすべしといっています。
確かに、これで教育費用に対する不安が和らぎ、出産率や結婚率、教育水準が上がり、日本の国力が増すのであれば、それは望まれますよね。と書くと、格差が広がる、金持ち優遇ではないかとの反対意見も出てくるんですよね。
当然、財政との兼ね合いもありますし。さて、政府はどのような判断を下すのか。答えは12月の税制改正大綱へ・・・。
Vol.8 贈与税がかかる?
全米オープンで準優勝に輝いた錦織選手、素晴らしい活躍でしたね!
優勝できなかったことへの無念さはあるでしょうが、更なる高みを目指して、今後ますます成長されることでしょうね!!
さて、そんな錦織選手に、ユニクロを手掛けるファーストリテイリングから特別ボーナスとして1億円が支給されると話題ですね。
そのうち、5,000万円は柳井会長個人からということで、これについて贈与税が課税されるということがニュースなっています。ちなみに、会社から支払われる5,000万円については所得税が課税されます。
通常通りに法令を適用すれば、その通りになるのでしょうね。何らかの理由をつけて贈与税の課税を免れるのは難しいように思います。
5,000万円について贈与税が課税されるとすれば、贈与税の税額は2,220万円になります。ないとは思いますが、万が一来年に支払いがずれ込むと、2,289.5万円になります。来年から贈与税が改正され、一定の親族間以外の贈与税については、最高税率が55%に引上げられるためなんです(ちなみに、現在は最高50%)。
ん?50%課税されるなら、贈与税は2,500万円になるのでは?と思われるかもしれません。
確かに、「最高」50%なのですが、すべてに50%ではないのですね。
まず、一般的によく行われている贈与については、年間110万円という基礎控除があり、そこまでは贈与税はかかりません。5,000万円もらったとすると、110万円を引いた4,890万円だけが課税される対象になるということです。
また、贈与税は、相続税や所得税と同様に「累進税率」という仕組みになっています。金額が少ない部分については低い税率、金額が多くなるにしたがって高い税率を適用するとい仕組みです。
この例でいえば、4,890万円のうち、200万円までは10%、200万円超~300万円は15%、300万円超~400万円は20%、400万円超~600万円は30%、600万円超~1,000万円は40%、そして、1,000万円超が50%が適用されます。これを計算してあげると、2,220万円になるというわけです。
気になるのは、錦織選手は日本人、つまり日本国籍ですが、住所はアメリカにあるとの点です。
日本の税金は高いから、外国に移り住んであらゆる税金を免れようという話を聞かれたかた、いませんか?
錦織選手はそれが目的ではないでしょうけれど、結果的にアメリカに住んでいる。では、日本の贈与税は課税されないのでは?との考えがよぎるかたもいるかもしれませんよね!?
結論は、贈与する柳井会長が日本に住んでいれば、錦織選手が世界のどこに移り住んでも日本の贈与税から免れることはできないんです。
それならと、柳井会長が贈与する際にアメリカに住所を移すとどうなるか・・・それでも、やっぱり贈与税は課税されるんですね。
贈与する柳井会長が、贈与の日前5年以内に日本に住所を有していたことがあれば、錦織選手が柳井会長からもらう財産については、その財産が世界のどこにあったとしても日本の贈与税がかかります。そのような考えをする人が出てくることを想定して法律が用意されているってことですね。
もし、日本の贈与税を回避しようとすれば、錦織選手が日本国籍を捨ててアメリカ国籍となり、柳井会長もアメリカに住所を移し、アメリカの財産を贈与する必要があります。ま、そんなことするのはあり得ない話でしょうけれど(苦笑
でも、万が一、これが実行されると、当局はまた法の手当てを考えるのでしょうかね~。
あの手この手で税を免れようとする人たちって、いつの時代になっても出てくるものなんでしょうね。
そして、税制も進化(?)していく・・・(続